中銀カプセルタワービル

移設の提案

中銀カプセルタワービル 移設の提案

東京、銀座の「中銀カプセルタワービル」の老朽化にともない、建物の解体が現実のものとなった時、カプセルをどのように保存、活用するか様々な議論がなされています。本来はメタボリズム(新陳代謝)のコンセプトに基づき25年でカプセルを交換する予定でしたが、まだ一度も行われてはいません。イタリアのミラノ工科大学建築学部のマルコ・インペラドリ先生と研究室の学生たちによるカプセル活用案をご紹介します。

メタボライジング・メタボリズム
黒川紀章のカプセルの行方についての未来像

マルコ・インペラドリ(ミラノ工科大学)

15年前にオランダのロッテルダムで黒川紀章に会う機会があった。 若かった私はデザイナー兼教授として大企業の招待で、黒川とニコラス・グリムショー卿という偉大な二人の建築家による特別講演に参加した。私たちがマース川でボートツアーに参加したことを思い出す。黒川はデッキに一人で立っていた。それは予期せずも彼が逝去する数年前のことだった。私は勇気を出して、建築界の「生ける記念碑」の一人であり、理論家と実践者の両者として元祖メタボリズム運動のリーダーである彼と、長く楽しい会話を交わした。
前から私は黒川作品に対する情熱を抱いていたが、その出会いは天啓だった。私たちは何を話したか。他に何があるだろう、もちろんカプセルについて、そして建築史における中銀カプセルタワーのユニークさについて語った。

それから数年が経ち、私は鈴木敏彦先生と友達になった折りに、あの思いに新たに火が付いた。黒川と7年間働いた鈴木先生は、中銀カプセルタワーの取り壊しの危機を教えてくれた。そこで私は、黒川が1970年の大阪万博で始め、東京の密度の中で具体化した中銀カプセルタワーと、同時に森の中で具体化した小さな「カプセルハウスK」の重要性と価値をさらに学んだ。これらはカプセルの柔軟な使い方と組み合わせの高度な可能性を示している。

しかしフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルの例のように、いずれ中銀カプセルタワーの解体の危機は、近々非常に現実的になると思った。こういった理由から、私は出来の良い学生数人を巻き込んで、様々な方法で中銀のカプセルを再利用し改装する研究を始めた。福島県でカプセルを再利用する計画を、2012年にハルビン工科大学博士課程の奕(現在は深圳大学の准教授)とミラノ工科大学博士課程のクリスティーナ・プシェドゥと共に考案した。カプセルを集めて村を作り、その上に波型金属板で丸屋根をかける計画だ(図1~3)。長年、黒川のパートナーだった阿部暢夫氏にこのアイデアを見せたところ、たいへん評価してくれた。

図1 「メタボライジング・メタボリズム 福島県沿岸部における中銀カプセルタワービルの再利用計画」(2012年) クリスティーナ・プシェドゥ、齐奕、マルコ・インペラドリ(ミラノ工科大学)
METABOLIZING METABOLISM, Reuse of Nakagin Capusules by Kisho Kurokawa: A proposal for a Fukushima Village (2012).Cristina Pusceddu, Yi Qi, Marco Imperadori (Politecnico di Milano)
図2 丸屋根の下に4個のカプセルを配置する。 図3 地上階は家族、2階は一人用として用いる。カプセル村の形成が、被災者の喪失感を補う。


2012年11月、工学院大学鈴木研究室にて、阿部暢夫氏と鈴木敏彦先生に研究を相談する筆者

最近では、フランチェスカ・プリニ、セレーネ・リニ、ニコーレ・ヴェットーレの3人がミラノ工科大学修士課程の2020年の卒業設計で、再び東北地方にてカプセルを異なる形で再利用する計画を研究した(図4~7)。岩手県大槌村では2011年3月の東日本大震災の津波で3千戸の家屋が倒壊し、12月に2064戸の復興住宅が作られた。私たちの提案は、中銀カプセルタワーに「垂直」に並んでいたカプセルをばらして日本の農村でよくある「水平」な配置に変え、共同スペースである土間や、プライベート空間であるカプセルや、共有の庭を加えるものだ。どちらの研究でも、垂直に構成した場合にはおそらくカプセルの欠点であった「単一性」を補い、機能や社会生活を分かちあう「共同性」を想定した(「カプセルハウスK」の解釈に良く似ている)。
図4 「メタボライジング・メタボリズム 中銀カプセルタワーの第三の方法」フランチェスカ・プリニ、セレーネ・リニ、ニコーレ・ヴェットーレ、マルコ・ インペラドリ(2020年)
METABOLIZING METABOLISM, The third way for the Nakagin Capsule Tower(2020)
Prini Francesca, Rini Selene, Vettore Nicole, Marco Imperadori. (Politecnico di Milano)
図5 第一(解体)、第二(美術館展示)に次ぐ第三(再利用)の方法によって メタボリズムの原則を「代謝」し、共同体の伝統的な価値を促進する。2020年度ミラノ工科大学卒業設計 Michele Silver競技一等賞 図6 カプセルを個室として再利用する。 図7 住民が交流する共用スペース。

私たちは中銀カプセルタワーをある意味で「消化」して変形し、そして同時に黒川が実際に夢見たカプセルの非永続的な構成と柔軟な可能性を解釈してみせた。私はこれらを「メタボライジング・メタボリズム」と呼びたい。果たして黒川は満足するだろうか。知る由もないが、彼の住宅カプセルというアイデアは、巨大都市における最小空間という問題に影響を与えたと思う。東京のホテルに約2万戸のカプセルがあるとすれば、それはすべて黒川から始まった。実際の社会の単一性が私たちを自然や人類から遠ざけているのだから、カプセルの外の空間を共有して共生する必要性をいずれ考えるべきだ。

イタリアでは黒川について議論が開かれている。カプセルを愛する建築家もいれば、嫌う建築家もいる。しかし、私たちがカプセルの概念に無関心でいられないことは明白だ。それは間違いなく建築史においてユニークで、生活を構想し、空間ひいては都市を作る上で革新的な金字塔である。カプセル建築は黒川紀章によって生まれた。この傑作なくして、モジュール、コンテナ建築、プレハブ小屋等を実際に議論し理解することはできない。(英日翻訳 杉原有紀)

中銀カプセルタワービル 緑化の提案

Capsule Architecture Projectinfo@capsule-architecture.com

Powered by ATELIER OPA