カプセル建築の系譜

座談会「黒川紀章のカプセル建築」

座談会(2)カプセルハウスKの維持保存

左から鈴木敏彦、茂木愛子、阿部暢夫、黒川未来夫
収録:2020年10月23日、会場:ATELIER OPA、撮影:中島智章

座談会(1)ホモモーベンスからカプセルへからの続きです。

カプセルハウスK(1973)

鈴木:それでは「カプセルハウスK」についてお聞きします。

黒川:元々は黒川事務所が所有する建物だったのですが、民事再生による会社の解散とともに銀行の担保物件として2015年に外に出てしまいました。当時、スポンサーの子会社として同名の新会社を作りそこに社員含めたすべてのものを移し、私と会社が負の借財を引き受けるという清算処理をしていたのですが、唯一この「カプセルハウスK」に限っては新会社に受け取っていただけませんでした。紆余曲折があり、2019年に私が入手しました。中央がリビングになっていて、周りに台所カプセルや茶室のカプセルがついています。万博と中銀のカプセルを合わせた印象です。この建物は47年もの間あまり使用されず、割に良い状態が守られていました。しかし劣化も目立って来ていますので、現在動態保存を目的に改装している最中です。竣工は1972年と出ている本がいろいろありますが、竣工図面には1973年とあります。

茂木:最初の計画ではこの場所ではありませんでした。以前から黒川先生が別荘地のコンサルタントをしていたことから、黒川のイニシャルのKをつけたモデルハウスを建てる話があり、普通の別荘を計画して何箇所か検討しました。

黒川:どの時点でカプセルを使う話がでてきたのでしょうか。

茂木:「中銀カプセルタワー」が終わってから、黒川先生から「カプセルを使いたい」という意向が出て、場所をここに決めて設計に入りました。上田憲二郎さんが統括し、私が図面を描きました。カプセルは中銀の余りではなく、同じ規格でもう一度制作しました。中銀と同じく、コアの施工は大成建設で、カプセルは大丸装工部が担当しました。中銀との違いは、カプセルの下面も外から見えるということです。斜面の中央にコアがあって、周囲にカプセルを4つ付けて、その中に茶室もつくりました。

黒川:大阪万博の頃に、斜面に並べる長いカプセルの案がありましたよね。「中銀カプセルタワー」の144個のカプセルを、この斜面にあの形で並べたいと私は思っています。ただ、カプセルを壊さずに外すのがどれだけ現実的なのかというところがあります。

阿部:それは1972年の「レジャーカプセルLC-30X」ですね。1972年のプロジェクトの「中銀宇佐美カプセルビレッジ」ではないですか。黒川と中銀と大丸装工部の三社で共同開発して売り出そうとして、プロトタイプが大丸装工の駐車場と八丈島に置いてあったと聞いています。中銀のカプセルを並べ直すのは面白いと思うけれど、使えるのは半分くらいじゃないかな。設備も配管もやり直ししなければならないし。

黒川:実際には全てを動かさなくてもよいと思います。例えば10個くらい。でも1から作るより高くつくこともあるかもしれません。中銀のカプセルが一部にあって、さらに新しいカプセルが混ざっても面白いと思います。

阿部:カプセル1個の制作費はたしか105万円でした。大丸装工部が大成建設に下ろした値段は300万円でしたか。

茂木:売値がたしか250万円。

黒川:近年は500〜700万円くらいのようですけど、売買した場合は地主のファンドが土地の使用権を認めないという通達が出ているようですので実際のところ売買できません。今作ったら製作費はどのくらいでしょう。

鈴木:おそらく500万円以下で制作できると思います。もちろん100個とか一定のロットが必要でしょうけど。1個だけなら、もっとかかるでしょうね。 「中銀カプセルタワー」と同じカプセルのボディーを使いながら外装をコールテン鋼に変えた理由についてご存知ですか。

茂木:もともとコールテン鋼で設計しましたが、「中銀カプセルタワー」の立地環境は潮風や排気ガスなどの条件が悪すぎて使用できませんでした。一方「カプセルハウスK」は原案通りコールテン鋼に仕上げたら、あの軽井沢の自然の中で、何の処理もせず、4〜5年ですごく綺麗なさび色になりました。阿部 中銀の一番上のカプセルはコールテン鋼を使っていますよ。海風が強く当たりすぐ錆びが進んでしまった。全体ではやめて良かったと思います。

黒川:ドーム型の窓も、本来中銀でやりたかったことだと聞いています。

茂木:敷地境界での取り扱いが問題でした。

阿部: プラスチックのドームは防火戸にならない。内側にガラスがないので「カプセルハウスK」は耐火建築じゃないね。火災保険が高くなる。(笑)

黒川:中銀で使った石綿も、こちらでは使わなくて済んだと聞いています。

阿部: 耐火ではないから。要するにいらない。それはよかったね。

茂木:「カプセルハウスK」の断熱材は個々のカプセルの外壁に入れています。それでも結構、水道管が凍結して毎年のようにやられています。冬の前に水抜きをしてもらっていますが、床下の給水配管に逆勾配との抜けきらないところがあり、凍結するところは毎年のようにカプセル内の床を開けて改修しました。階段の下がコアへの配管スペースですから、点検口からのぞけるようになっています。カプセルのトイレも寒冷地用の水抜きができるタイプです。

黒川:1996年に一度改修していますよね。

茂木:内装の改修でした。地階の大きな窓の横の角のボックスにすべてのシャフトが通っていて、水抜きのカランがありますが、竣工時にはその前に手洗いがありました。地階は、ダーツとかいろいろな遊び道具が置いてありましたが、改修で寝室にして手洗いを外しました。

黒川:地階は、すごく大きな窓があって、すごくいい部屋だと思っているのですが、ただすごく虫がでます。だいぶ対処して抑えましたが。

茂木:私は年に数回、冬と夏に管理に通っていました。その時も地階に虫が出ていました。月に一回は管理会社が清掃して、水抜きと水入れはすべて管理していましたが、水抜きのどこかの穴と、湿気対策の地階の換気扇から虫がはいってきたと思います。

黒川:イギリスのマイケル・ブラックウッド監督の「Kisho Kurokawa」の映画が1993年に公開されました。撮影では黒川本人が地階の大きな窓を背景に、椅子に座ってメタボリズムの説明をしました。それで綺麗にしたのだと思います。けっこう金額も2000万円以上かかったと聞いています。先日、初めて暖炉に火を入れました[4]。最初煙が室内にでてきましたけど、途中からなんとか抜けるようになりました。

鈴木:暖炉は竣工時にうまく煙を吸わなかったので、黒川に怒られたと聞いていますが。

茂木:設備担当の海老澤元孝さんが黒川社長に「どんな設計をするとあんなことになるんだ」と怒鳴られていました。それですぐ改修し、その時に暖炉の開口上部に大理石を設置しました。

鈴木:黒川はどのカプセルを寝室にしていたのですか?改装後、寝室を地下[5]のアトリエに変えた理由はなんですか。

茂木:カプセルではなく、広い地階で休みたかったからではないでしょうか。2階の作り付け家具のある部屋が黒川先生の部屋でした。ベッドがあって、その隣のカプセルは床にマットレスを敷いていました。

鈴木:お茶室はどのように使っていましたか。古い大きな板に文字が彫ってある茶室扁額[6]が置いてありますが。

茂木:誰かに頼んでお茶を点ててもらうことはなく、「僕は自己流です」とご自分で点てていました。扁額は、古いものを買ってきたか、もらったものだと思います。

黒川:リビングにある古民家の家具は。

茂木:地下を改修した時に先生が持ってみえたものです。いろいろ古いもの、かんなや墨壺などの大工道具なども集めていらっしゃいました。入り口脇にオートバイ用の小屋がありました。黒川先生が上田憲二郎さんのラッタッタ(ホンダのファミリーバイク)を見て、自分も乗りたくて置いていましたが、一度軽井沢プリンスホテルまで往復して、懲りたそうです。改装前になくなりました。

黒川:角の丸いところはバーベキューをやる場所ですか。ちょうど炭入れが中にあります。しかし友人の中銀の住人たちがテラスでバーベキューをやって、火が上がって台所カプセルの底面の鉄板の溶接がはずれて落ちてしまいました。そこに水が溜まって木が朽ちて壊れてしまい、今はテラスを撤去した状態です。

茂木:テラスは階段で降りて行ける場所として、内部の改修の前につくりました。

黒川:台所カプセルは底面のない状態で5〜6年放置されていたので、シロアリではないが多少アリが巣食っていて木の粉が散見される状態です。もし床などの木部が朽ちてくると台所のカプセルを交換しないといけない状況になります。資金があればカプセル交換をしたいと思います。実現できたら、メタボリズム建築としても正しい姿になります。

茂木:道路側からクレーンで吊り下げて設置したので、フックをとっていなければ、同じように外すことができると思います。固定ボルトはコンクリートの壁を壊して取る必要があります。壁厚は250〜300mmくらいあったと思います。

黒川:中銀でもコンクリートの壁を壊さない限り固定ボルトにアクセスできないので、壊したら、隙間に落として、ワンウェイボルトで締めるようです。

鈴木:メタボリズムが目指したカプセル交換の日が訪れそうですね。本日は誠にありがとうございました。最後にマスクを取って記念撮影を行います。

カプセル建築の系譜 1969 カプセル宣言

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